ご無沙汰しておりますが、翻訳の仕事自体は、日本からのみならずニュージーランド国内でも直接の依頼が入るようになり、順調に進んでいます。
そんな中、ここ数年お世話になっている翻訳会社を通して、投資者向けの会社情報の日英の案件が入りました。翻訳会社からのメールの本文にクライアントからの「翻訳者はトダンさんでしょうか?違う方ならご連絡ください」とのメッセージがコピー&ペーストしてあり、断りたくても断れない状態でした。
断りたかった理由は体調が優れなかったことに加え、いつものアメリカ人校正者が1週間休みを取ることになったためでした。でも、まぁ、他が見つかるだろうと簡単に考え、OKしてしまいました。。。
なのに、ですよ。。。アメリカもホリデーならこちらもホリデー。アテにしていた義母が4泊5日で先月亡くなった知人の家の片付けのためにワイヘケ島に行くと言うのです。ドイツ在住の友人もアメリカに引っ越す準備で忙しいし、地元のおじいさん校正者もオークランドの病院に行かなければならないとのこと。仕方がないので、ドイツの友人がイタリアで知り合ったニューヨーク在住の校正者というのを紹介してもらいました。
ところが、この女性とのコミュニケーションがうまく行かないのです。こちらがメールをしてもすぐには連絡が来なくて、仕事をしてもらえるのかもらえないのかも分からない状態が続き、だんだん不安になりました。だから、納期に間に合わないかも知れないと思い、翻訳会社に連絡して1日延ばしてもらうことに成功。(「一生懸命にやっていただいているお姿が目に浮かぶようで感謝に堪えません。」とクライアントからの温かいことばはうれしかったです。)
それでも、本来の納品日の朝には最初の校正分が送られて来たので、もしかしたら間に合うかも!とホクホク気分でした。それで、彼女が修正した箇所を一つ一つチェックして、最終版にし、もう一度確認してほしい箇所などをコメントにして送り返しました。1時間ぐらいで最終校正が終わったとメールがあったのですが、ファイルを開けてみたら、最初に送った原稿に修正を追加してあったんです。でも、最初に修正した箇所と2回目に修正した箇所を区別する手段がなく、私はもう一度始めからチェックし直すしか方法がありませんでした。
でも、全部で23ページ、原稿文字数で日本語16,198文字分ですよ。3時間ぐらいかけてチェックした私の作業が全く無駄になってしまっていることにがっかりしましたし、またやり直す気力もなく、校正者にその原稿を送り返し、「私が2回目に送った原稿を使用してください」とお願いしました。そしたら、「あなたは私の2回目の校正を無駄にするの?」と言われ。「あなただって私が2回目に送った原稿を無視しただろうが!」と思いましたが、怒ってもどうしようもないので、「もういいです。自分でやります」と返事しました。
それで私が一つずつまたチェックし始めて1時間もした頃に彼女からまたメールがあり、「これが私の修正の最終版です」と来ました。ちょっと期待して開けたのですが、間違いだらけ。。。
「当社」を"the company"としてあったのですが、彼女はワードの検索&一括変換機能を使用して"company"をそこに出てくる会社名(例えばABC)に変換してしまったのです。だから、ABCの会社名の前に"the"が残っていて、「会社名の前にtheがつくのはおかしいのではないか」と聞いたところ、「私はtheはつけていない。私が削除したものをあなたが受け入れずに元に戻したのだろう」と言われました。(彼女からの「最終版」にもしっかりtheがついているのに、ですよ。)だから、「上場企業」も"a listed company"ではなく"a listed ABC"、同種企業の一覧の「会社名」"Company Name"も"ABC Name"。しかも、ABCもABCとなっているところとAB Corporationとなっているところがあって統一されていません(これは、彼女に言わせると「統一されていないのではなく、表記方法を変えることで読者の注意を引く」のだそうですけど)。
「最終版」にしてしまうと、当然、こちらではどこが変更されたか分からないワケで、仕方ないので、ワード文書を2つ並べて比較し、全部見直しました。ネイティブが校正したものをなぜ翻訳者である自分が校正し直さなければならないのか。。。こんなことに丸々1日かかってしまい、疲れていたからか、涙も出てくるし。。。夫もそれを見たので、翌日にプリントアウトしたものを何も言わずにチェックしてくれました。
その後、そのニューヨーカーの彼女からどうなったのかと聞かれ、経過を話し、「あなたからもらった『最終版』にはミスが多過ぎてそのまま納品できる品質ではなかった。あなたは私に後始末を押し付けることができるけど、私は中途半端な仕事を納品することはできない」と言いました。そしたら、「私はもう20年以上編集の仕事をしているし、実績もあるのよ。あの仕事にミスが多かったのは時間がなかったから。それに、あんな小さなフォントでは見難いし」と言い訳のオンパレード。時間がないからミスだらけでもいいことにはならないし、クライアントの指示通りに仕上げるのが仕事なんですもん、フォントが小さ過ぎるなんて文句は言えないものです。確かに私も見難かったので、大画面にして仕事をしたのだから、彼女が自分で何らかの工夫をすればよかっただけの話。
納品後に、ホリデー中の校正者が自宅に戻ってから、会社名の表記のゆれについて質問したら、「自分なら統一する」とのことでしたので、私の校正でよかったのだと安心しました。
でも、この会社の案件はここで終わりではなく、執筆者と意見が合わない箇所が1つあったんです。他に使用例が見つからない日本語の単語があり(だから、その単語をここで出してしまうとこの会社名が特定されてしまうので、分かりにくいですが出さずに説明しますね)、その訳語が特定できなかったので質問したところ、ある英単語を掲示されたのですが、どうしても納得できませんでした。しかも、内容は決算報告書。夫の専門なのですが、夫に見せても理解できないと言われたのでそこをコメントで質問するような形で納品していたのです。
だから、2回目に同じところを聞いても夫の答えは同じ。さすがに3回目に同じ箇所を指摘された時は、「とりあえず、日本語と合わなくてもいいから、この内容に合う単語を教えて!」と夫に教えてもらい、翻訳会社には「申し訳ありませんが、プロの会計士が理解できない計算方法をご使用されていらっしゃるようですので、執筆者の方がその単語を使用されたいのでしたらそうしていただいてください。日本語の意味にも合いませんので私のほうでは責任が持てませんが、お客様がそれで気が済むのでしたらそのようにお願いします。」とお願いしました。同じ箇所について3回以上夫に質問していましたので、これ以上聞いても違う答えが得られるとも思いませんでしたし、他の分野ならまだしも、会計の分野で、私がこれだけしつこく聞いても夫が答えを出せないものはまずないのではないかと思われました。
そして、それに対して、翻訳会社からは「発注元と執筆者の話し合いの結果トダンさんの翻訳OKで決着がついたそうです。発注元より『翻訳者(チエッカー含む)の方にご対応をありがとうございました。くれぐれもよろしくお伝えください』と労をねぎらわれました。」とのメールがあり、やっと終了となりました。
久々に大変な仕事でしたが、何度質問しても怒らずに聞いてくれた夫と、いつも徹底的に付き合ってくれる校正者がいて自分は幸せだと思いました。まぁ、校正者全員が都合が悪いなどという状況は滅多にあるものではありませんけど、臨時の校正者を数人確保しておかなければ。。。